Claudeで会議の議事録作成を試してみた|文字起こしからの要約は使えるか
文字起こしはあるのに、議事録にするのが面倒
オンライン会議ツールの文字起こしが当たり前になって、「会議の全文テキスト」は簡単に手に入るようになりました。でも、そのテキストをそのまま配っても誰も読みません。結局、誰かが最初から読み直して「決まったこと」と「宿題」に整理する作業が残ります。
ここをClaudeに任せたらどこまでできるのか、試してみました。知りたかったのは要約の上手さそのものより、文字起こし特有の落とし穴のほうです。会議中の言い間違い、誰の発言か分からない箇所、雑談と決定の境目。このあたりをAIがどう扱うのかが気になったので、落とし穴をわざと仕込んだ文字起こしを自分で用意しました。
実験の手順
サンプルデータ:架空の会社の定例会議
架空の会社「株式会社サンプル商事」(従業員30人ほど)の9月度月次定例会議を想定し、参加者5名(田中・佐藤・鈴木・高橋・山本、いずれも架空)の文字起こしを約2,900字で作りました。冒頭はこんな調子です。
田中:それでは9月の定例会議を始めます。今日は8月の実績確認と、経費精算システムの件、それから10月の展示会の件、この3つが主な議題です。あと採用の状況も高橋さんから軽く共有をお願いします。
佐藤:はい。まず8月の売上ですが、速報値で前年同月比プラス6パーセントでした。卸売部門が好調で、逆にEC部門は少し落ちています。
鈴木:ECは夏場の配送遅延の影響が出ていますね。8月後半に持ち直しているので、9月は戻ると思います。
田中:了解です。確定値はいつ出ますか。
佐藤:締めが来週なので、来週の金曜には確定版を出せます。
議題は「8月実績」「経費精算システムの乗り換え」「10月の展示会」「採用状況」の4つ。ここに、ただ要約させるだけで終わらないよう、次の仕掛けを埋め込みました。
| 仕掛け | 内容 |
|---|---|
| (a) 訂正される数字 | 営業の鈴木が展示会の出展費用を「180万円」と言い、後で経理の佐藤が「申請書では150万円」と指摘。鈴木が「150万円が正しい」と訂正する |
| (b) 話者「不明」の発言 | 4か所の発言を「不明:」にした。うち1つは「説明会は10月の頭でいいですかね」という提案、1つは担当を振られた場面での「はい」という返事 |
| (c) 決定に見える雑談 | 「観葉植物を増やしたい」に「やりましょうよ」と乗る人がいるが、司会が「追々」と流す。「AIツールのライセンス」も「来期の予算会議で」と先送り |
| (d) 担当者のいないタスク | 「請求書フォーマットを月末までに用意する」と司会が言うが、誰がやるかは明言されない(直後に「不明:はい。」がある) |
この文字起こし自体もClaudeに書かせたものなので、本物の自動文字起こしにつきものの誤変換や言いよどみは入っていません。その意味では、かなり「きれい」な条件です。
まずはシンプルなプロンプトで
最初から凝ったルールを並べると、何が効いたのか分からなくなります。なので注意書きは「推測しない」「文字起こしにない担当者名は書かない」の2つだけにしました。
以下は株式会社サンプル商事の月次定例会議の文字起こしです。
次の形式で議事録を作成してください。
- 会議の目的
- 決定事項(箇条書き)
- 未決事項・持ち越しの論点
- 次回までのタスクと担当者
事実として書かれていないことは推測で補わず、
文字起こしにない担当者名は書かないでください。
[ここに文字起こし全文を貼り付け]
結果
1回目の出力
返ってきたのは4つの見出しに整理された議事録で、決定事項が9項目、未決事項が4項目、タスクが6項目でした。仕掛けに関わる部分を抜粋します。
決定事項
- 経費精算システムの従業員向け説明会は10月初めに実施し、説明会資料は総務が作成する
- 10月15日・16日のビジネスEXPOに出展する。出展費用は150万円(会議中に180万円と発言があったが、申請書に基づき150万円に訂正)
- ノベルティの刷新は保留とする
未決事項・持ち越しの論点
- ノベルティの刷新(パンフレットの見積もりを見てから判断)
- オフィスの観葉植物の増設(予算の都合で追って検討)
- 来期のAIツールライセンスの全員分取得(来期の予算会議で検討)
次回までのタスクと担当者
- 請求書フォーマットの新版作成(月末まで):担当者は明言されていない(佐藤が状況を説明し、田中の「お願いします」に発言者不明の「はい」と応答あり)
仕掛けごとの採点
仕込んだ4つを一つずつ照らし合わせると、こうなりました。
| 仕掛け | 結果 | 評価 |
|---|---|---|
| (a) 訂正される数字 | 訂正後の150万円を採用。「180万円と発言があったが訂正」と経緯まで書いた | 拾えた。ただし議事録に訂正前の数字が残るのは読み手を迷わせる |
| (b) 話者「不明」の発言 | 「不明」の提案だった「説明会は10月の頭」を、そのまま決定事項に書いた | 誤り寄り。誰の提案かも、合意があったかも書かれていない |
| (c) 決定に見える雑談 | 観葉植物・AIライセンスは未決事項に正しく分類。一方でノベルティが決定事項と未決事項の両方に載った | おおむね拾えたが、二重掲載あり |
| (d) 担当者のいないタスク | 「担当者は明言されていない」と書いた | 拾えた。ただし注記に佐藤の名前と経緯が入り、流し読みすると佐藤の担当に見える |
一番心配していた数字の訂正は、あっさりクリアでした。本文に「150万円が正しいです」という明確な訂正があれば見落とさないようです。しかも「180万円と発言があったが、申請書に基づき訂正」と経緯まで添えてくる。丁寧ではあるのですが、完成した議事録に訂正前の数字が残っているのは、読む側にとっては余計な情報でした。
雑談の扱いも思ったより堅実でした。「観葉植物を増やしたい」に「やりましょうよ」と乗る人がいても、司会が「追々」と流していれば未決事項に入る。賛同の声があるだけでは決定扱いしない、という線引きはできています。担当者が書かれていないタスクに、それらしい名前を当てはめることもありませんでした。
つまずいたのは、話者が「不明」になっている発言です。「説明会は10月の頭でいいですかね」という提案は誰が言ったのか分からず、そのあと他の参加者は資料の話しかしていません。それでも議事録には「10月初めに実施し」と、決定事項として並びました。誰の発言か分からない話が、配られた時点で既成事実になる。議事録の失敗としては、これが一番まずいと思います。
細かいところでは、ノベルティの件が決定事項(保留)と未決事項(見積もり待ち)の両方に載りました。どちらも内容は正しいのですが、読み手は迷います。担当未定のタスクに添えられた「佐藤が状況を説明し…」という注記も、名前だけ目に入ると佐藤の担当に読めてしまう。「推測しない」という指示自体は守られていて、残ったのは書き方の問題でした。
ルールを足して、もう一度
1回目で見えた問題に合わせてルールを4つ足し、同じ文字起こしを渡し直しました。追加したのは次の部分です。
ルール:
- 決定事項には、会議中に明確に合意・決定された内容のみを書いてください。
提案・要望・雑談・「追って検討」とされた話題は決定事項に入れないでください。
- 会議中に訂正された数字は、訂正後の数字だけを採用してください。
- 話者が「不明」となっている発言は、誰の発言か推測しないでください。
その発言をもとに決定事項やタスクを書く場合は「(発言者不明)」と添えてください。
- 担当者が明言されていないタスクは「担当者未定」と書いてください。
変わった箇所を抜粋します。
未決事項・持ち越しの論点
- 経費精算システムの従業員向け説明会の時期(「10月の頭」という提案あり(発言者不明)。明確な合意はなし)
- 展示会ノベルティの刷新(保留)
次回までのタスクと担当者
- 請求書フォーマットの新版作成(月末まで):担当者未定
説明会の時期は決定事項から未決事項へ移り、「発言者不明」「明確な合意はなし」と注記されました。出展費用は150万円だけになって訂正前の180万円は消え、ノベルティの二重掲載も解消。請求書フォーマットの担当は「担当者未定」の一言になりました。狙ったところはひと通り直っています。
ところが、思わぬ副作用がありました。1回目には決定事項として載っていた「展示会当日のスタッフは営業から延べ6名、企画から1名」が、2回目では議事録のどこにも出てこなくなったのです。文字起こしを見返すと、このくだりは「予定しています」「お願いできれば」「大丈夫です」というやり取りで、たしかに「明確に合意・決定された内容のみ」とは言い切れません。ルールを厳しくすると、正式な決定ではないけれど共有しておきたい情報がこぼれる。そういうトレードオフでした。
使うとしたら、こう使う
効き目が大きかったのは「明確に合意・決定された内容のみ」という一文です。これを足すだけで、話者不明の提案や雑談が決定事項に紛れ込む問題はかなり減りました。裏を返せば、何を「決定」と呼ぶのかをこちらが決めてやらないと、AIは会話の勢いのほうに引っ張られます。
そのうえで、見出しが3分類では足りないと感じました。決定・未決・タスクだけだと、スタッフ人数のような「決まってはいないけれど共有したい情報」の置き場所がありません。「共有事項・報告事項」の欄を1つ足しておくと、厳しいルールとの相性がよさそうです。
話者不明の箇所は、「(発言者不明)」と注記させる方法でひとまず防げました。ただ根っこは文字起こし側の問題なので、誰の発言か分かっているなら、貼り付ける前に名前へ置き換えるほうが確実です。数字も似ています。今回は訂正がはっきりしていたから拾えただけで、実際の会議には「あ、さっきの違うわ」くらいの曖昧な訂正も多いはず。金額と日付は原文に当たる、と決めておいたほうが安全だと思います。
この実験の限界も書いておきます。文字起こしを作ったのも、要約させたのも同じClaudeです。仕掛けの場所を「知っている」状態で試したことになるので、条件は本物より甘めでした。誤変換や話の脱線が加わる実際の文字起こしでは、精度は下がるかもしれません。
まとめ
意外だったのは、数字の訂正という「難しそうなこと」は最初からできていて、つまずいたのが「誰が言ったか分からない発言をどう扱うか」という、人間なら会議の空気で判断している部分だったことです。AIは文字になっていることしか見ていません。発言の重みづけは、こちらが言葉で指定するしかない。議事録づくりでプロンプトに書き込むべきなのは要約の仕方ではなく、「何を決定と呼ぶか」の定義でした。
そして、ルールを足せば足すほど良くなるわけでもありませんでした。厳しくした分だけ情報は落ちるので、落ちたものを受け止める見出しを一緒に用意しておく。AIに下書きを作らせて人が原文と照合する、という分担にするなら、この設計だけは人間の側に残る仕事になりそうです。