Practice

自分の書き方のクセを、別の会話に持ち越せるルール文1枚にできるか

#Claude#社内文書#プロンプト#資料作成

中身は合っているのに、自分が出した文書に見えない

AIに社内向けのお知らせを書かせると、情報は正しいのに、そのまま送信できない形で返ってきます。日程がきれいに箇条書きになっていて、見出しまで付いている。そのたびに「箇条書きはやめて」「もう少し固く」と言い直しますが、その指示は会話を閉じると消えます。翌週、また同じことを言っています。

では自分の文体を説明すればいいのかというと、これが言葉になりません。「丁寧な感じ」くらいで止まります。だったら説明をやめて、過去に書いたものを渡してしまえばいい。

やったことは3つです。架空の総務担当が書いた社内お知らせ5本をClaudeに渡す。書き方のルールを1枚のテキストにしてもらう。そのルール文だけを、元の5本を一度も見ていない別の会話に持っていって、まったく違う題材でお知らせを書かせる。3つ目を同じ会話でやると元の文章が視界に残るので、ルールだけで再現できたことになりません。

材料はすべて架空です。株式会社サンプル商事の総務課に山田れい子さんという担当者がいる設定で、その人が出したお知らせを5本。1本200字前後、題材は清掃当番の変更、健康診断、複合機の入れ替え、駐輪場の閉鎖、備品発注の〆切変更。そのうち1本だけ載せます。

社員のみなさま

お疲れさまです。総務課の山田です。

給湯室の清掃当番について、来月10月分から順番を入れ替えさせていただきます。これまで部署ごとの持ち回りでしたが、部署によって人数の差が大きく、負担に偏りが出ていましたので、フロア単位に変更いたします。新しい当番表は給湯室の扉の内側に貼り出しますので、ご自身の担当週をご確認ください。当番の週に不在の予定がある方は、前の週のうちに同じフロアの方と交代をお願いできますでしょうか。ご不明な点は総務課(内線220)までお問い合わせください。

ルール文だけを渡された会話が、書いてきたもの

新しい題材は、勤怠システムが9月14日から16日までサーバー不具合で止まり、打刻できなかった分を紙で出してもらう、という案内です。メモは箇条書きで渡し、担当者名と各日付の曜日と問い合わせ先の内線番号はわざと書きませんでした。

出てきたのがこれです。

社員のみなさま

お疲れさまです。総務課の【要確認:担当者名】です。

勤怠システムの停止と、停止中の打刻の取り扱いについてお知らせいたします。サーバーの不具合により、9月14日(【要確認:曜日】)から16日(【要確認:曜日】)まで勤怠システムが停止しておりました。現在は復旧しておりますが、ご迷惑をおかけいたしました。この期間に打刻できなかった分は紙の勤怠修正届での申請が必要になりますので、上長の押印を受けたうえで、9月25日(【要確認:曜日】)までに総務課へご提出いただけますでしょうか。用紙は2階の総務課カウンターに置いておりますので、ご記入の前にお立ち寄りください。ご不明な点は総務課(内線【要確認:内線番号】)までお問い合わせください。

箇条書きになっていません。ここがいちばん危ないところでした。ルール文そのものが見出しと箇条書きだらけで、Claude公式のプロンプト指針には、プロンプト自体の書き方が出力に影響する(プロンプトからMarkdownを外すと出力のMarkdownが減る)と書かれています。それでも「箇条書きを使わない」というルールのほうが勝ちました。

数字の書き分けも生きています。「9月14日」は半角、「2階」は全角。取り出した規則のうち、いちばん説明しにくい部類のものです。

書かなかった項目は5か所すべて【要確認】で残りました。曜日は日付から計算できるのに、埋めていません。 もっともらしい値を入れられるより、空欄が目立つほうが清書する側は助かります。

依頼の書き分けも通りました。押印をもらって期限までに出す重いほうだけが「ご提出いただけますでしょうか」の疑問形で、用紙を取りに行く軽い動作は「お立ち寄りください」と言い切り。読み手に手間がかかる回なので詫びも入っています。

破られたのは長さだけです。本文は260字で、ルールの上限250字を10字超えました。

渡したルール文

守ること、避けること、迷ったときの優先順位。この3部構成で、守ることが18項目(文の書き方12、何を書くか6)、避けることが9項目あります。全部は載せませんが、さっきの出力に効いていたのはこのあたりです。

A4. 箇条書き・番号付きリスト・表・見出し・太字・記号(■ ◆ ※)を使わない。日時・場所・階数・
対象者のように箇条書きにしたくなる情報も、文の中に続けて書く。

A5. 読み手に手間や我慢が生じる依頼は「〜をお願いできますでしょうか」または「〜していただけ
ますでしょうか」で終える。この疑問形の依頼は1通に1回だけ使い、いちばん負担の重い依頼に
充てる。

A11. 数字の書き分けを守る。日付と月は半角数字。時刻・階数・日数・部屋番号・内線番号は
全角数字。

これに「情報が足りない項目は勝手に埋めず【要確認】と書く」を足してあります。

「クセを教えてください」では、書ける形にならなかった

ここまで来るのに、プロンプトを変えています。

最初は5本を貼って「この人の書き方のクセを教えてください」と聞きました。返ってきたものは予想より具体的で、数字の全角・半角の使い分けまで名指しされていました。それでも、これを渡されて別の人が同じ調子で書けるかというと書けません。「長い文を好む傾向があります」は観察の報告であって、書いている最中に使える指示ではないからです。おまけに最後は、頼んでいない講評で締められました。

全体として、読み手の負担に気を配りながら、必要な情報を落とさずに書ける人だと思います。社内文書としては完成度が高いです。

効いたのは次のプロンプトです。

別の人がこの人になりきって書けるように、守れば再現できるルールの形にしてください。
「丁寧」「分かりやすい」のような形容は使わず、書きながら判断できる言い方にしてください。
各ルールに、5本のどこから読み取ったかの引用を1つ添えてください。

真ん中の2つの縛りだけで、さっきの「長い文を好む傾向があります」が「一文が60字前後になってもそのまま書く。読点で刻んで短い文に割らない」に変わりました。傾向が数字になれば、文を割るかどうかを書いている最中に決められます。

渡すサンプルを5本にしたのは、同じ公式ページが例の数を「最良の結果には3〜5個」としているからです。例は <example> タグで囲むと指示と区別できること、長い資料は指示より前に置くと性能が上がることも書かれているので、そのとおりに貼りました。

「避けること」だけは、人が間引く必要がある

避けること9項目には、根拠のないものが混じっています。「カタカナの言い換え(アナウンス、リマインド、シェア、エントリー)」がそれで、元の5本に出てこなかった、というだけの理由で入りました。

守ることは、書かれた文章から取り出せます。「疑問形の依頼は1通に1回」は5本を数えれば出てきます。避けることは、出てこなかったという事実からの推測にしかなりません。山田さんが普段ふつうに「リマインドします」と書く人なら、このルール文はその人の語彙をひとつ勝手に禁止したことになります。

自分の過去メールでやるなら、「避けること」の欄だけは目を通して、身に覚えのない項目を消す。守ることの欄は読み飛ばしても実害が出にくいのに、ここだけは人の確認が要ります。

自分でやるときに

できあがったルール文は、書くときに会話の冒頭へ貼れば足ります。今回の結果もそれで出ました。毎回貼るのが面倒なら公式に置き場所があって、アカウント全体に効く「Instructions for Claude」、そのプロジェクト内だけに効くプロジェクト指示、必要に応じて読み込まれるスキル、という3つに分かれています(パーソナライズ機能の説明)。文体ルールなら素直なのはプロジェクト指示でしょう。ただし今回、これらの画面はいっさい操作していません。公式ページの記載であって、僕が試した結果ではありません。

条件をひとつ書いておきます。サンプルの5本を書いたのも、そこからクセを抽出したのも、同じClaudeです。 自分が書いたものを自分で読み返しているようなもので、人間の文章を初めて読む場合より有利になっている可能性があります。渡した5本が全部「社内お知らせ」だったことも効いていて、取り出されたものには個人のクセと文書の型が混ざっています。種類の違う文章を混ぜたほうが、個人のほうが残るはずです。

まとめ

唯一破られたのが「長さ」で、その破られ方までルール文に書いてありました。優先順位の4番目がこれです。

4. 長さ。1〜3を満たして250字を超えるなら、理由の説明(B2)を削らず、経緯の細かい描写の
   ほうを削る。

上の3つは、事実の正確さ、読み手の行動と期限が伝わること、文体ルールの順。250字を超えたら長さが負けると決めてあって、そのとおりに負けました。ルールを並べるだけだと、全部は守れない場面で何が起きるか分かりません。どれを先に諦めるかを書いておくと、壊れ方まで決められる。 3部構成のうち「迷ったときの優先順位」はおまけのつもりでしたが、実際に効いたのはここでした。

文体を引き継ぐというのは、言葉づかいを写すことだと思っていました。写っていたのは判断の基準のほうです。重い依頼かどうか、不利益があるかどうか、いつまでにやってほしいのか。架空の山田さんが毎回どこで迷って、どちらに倒していたか。それが規則になって、別の会話に移りました。

関連記事