送る前のメールをAIに直させたら、受け取る人の手間が増えた
13件が3件になりました。
書き直しを頼んだClaudeが、そう報告してきました。同じ書き直し文だけを新しい会話に貼り、元の文も書き直しであることも伝えずに数え直してもらったら、16件でした。
やったことは単純です。まだ送っていない連絡文を1通貼り、添削ではなく「この文を受け取った人が、返信を送り終わるまでにする作業」を順に全部書き出してもらう。そのうえで、その作業がいちばん少なくなるように書き直してもらう。最後に、出てきた書き直し文だけを新しい会話に貼って、同じ数え方でもう一度数えてもらう。
減っているはずでした。増えていました。
渡したのは、200字ほどの普通の連絡文
架空の会社と架空の担当者で作った連絡文です。取引先に日程変更をお願いする、よくある1通のつもりで書きました。
株式会社サンプル商事 田中様
お世話になっております。サンプル企画の山田です。 先日ご相談いただいた見積書の件ですが、社内で確認したところ、数量の条件を少し変えさせていただければ対応可能とのことでした。改めて金額をまとめまして、明後日までにお送りいたします。
それと、来週の打ち合わせですが、こちらの都合で恐縮ですが水曜の午後に変更をお願いできないでしょうか。もし難しいようでしたら別の日程を調整いたしますので、ご都合をお聞かせいただけますと助かります。
よろしくお願いいたします。
頼んだのは「読みやすく直して」ではありません。1件ごとに「作業」「その種類」「もとになった一行」の3つを書き出してもらいました。種類は、開いて調べる/人に聞く/自分で決める/返信の文を書く/ものを用意する、の5つから選んでもらう形です。「開く」「読む」「理解する」「送信する」はどんな連絡文でも同じように起きるので、数えません。
返ってきたのは13件。開いて調べるが5件、自分で決めるが4件、人に聞くが2件、ものを用意するが1件、返信を書くが1件。
頼む前に、僕は自分の予想を書いて保存していました。2件です。水曜の午後が空いているか予定を見る、返信を書く。それで終わるつもりで書いた文でした。実際に挙がってきたもののうち3件を、そのまま引きます。
5. 「明後日」が何日かを数え、自分の社内締切に間に合うか確認する
- 作業:見積が届く日を日付に直し、稟議や発注の締切と突き合わせる
- 種類:開いて調べる
- 元の一行:「改めて金額をまとめまして、明後日までにお送りいたします。」
10. 「午後」の何時からにするかを決める
- 作業:時刻が書かれていないので、開始時刻と所要時間を自分で決めて提案する
- 種類:自分で決める
- 元の一行:「水曜の午後に変更をお願いできないでしょうか。」
12. 水曜が難しい場合に出す代替候補日を選ぶ
- 作業:自分と同席者が空いている日時を2〜3個拾って候補にする
- 種類:自分で決める
- 元の一行:「もし難しいようでしたら別の日程を調整いたしますので、ご都合をお聞かせいただけますと助かります。」
12番がいちばん堪えました。「別の日程を調整いたします」と書いた時点で、僕は手間を自分で引き取ったつもりでいたわけです。相手の側から見ると、調整するために候補を出すのは相手のほうでした。
書き直してもらったら、16件になった
「次へ」と送ると、書き直し文が返ってきました。読みながら、どこが作業を増やす原因になったのか探してみてください。
株式会社サンプル商事 田中様
お世話になっております。サンプル企画の山田です。 9月18日にご相談いただいた「Aシリーズ追加発注」のお見積り(見積番号 Q-2026-0418)と、9月30日の打ち合わせについて、2件ご連絡します。
■1. お見積り:数量を150個にしていただければ、ご希望の単価でお出しできます
ご希望の単価2,400円は、現在の数量100個のままでは出せませんでした。数量を150個に変更いただければ、単価2,400円・合計360,000円(税別)でお出しできます。 100個のままの場合は、単価2,650円・合計265,000円(税別)です。 どちらの場合も、見積書は9月25日(金)17時までにPDFでお送りします。
お手数ですが、本メールへの返信で「150個」「100個のまま」のどちらかをお知らせください。9月25日12時までにお返事がない場合は、150個の版と100個の版の両方をお送りしますので、そのままお待ちいただいても結構です。
■2. 打ち合わせ:9月30日(水)10:00を、同日14:00に変更させてください
・変更前:9月30日(水)10:00〜11:00/オンライン(Teams) ・変更後:9月30日(水)14:00〜15:00/オンライン(Teams・接続URLは変更前と同じものが使えます)
議題・所要時間・出席者は変更前と同じです(弊社は山田・佐藤の2名)。14時からの枠でカレンダーの招待を送り直しましたので、そのままご承認いただければ変更完了です。
14時が難しい場合に備えて、下記3つも弊社側で空けてあります。番号だけ返信いただければ、こちらで枠を取り直します。 (1)10月1日(木)13:00〜14:00 (2)10月1日(木)16:00〜17:00 (3)10月2日(金)10:00〜11:00 いずれも難しい場合は、田中様のご都合のよい日時をそのままお書きください。
よろしくお願いいたします。
読んだ感じは、はっきり親切です。日付が入り、金額が入り、候補まで先に出ている。書き直したClaudeも「13件が3件になりました」と報告してきました。
この文だけを新しい会話に貼って、同じ数え方で数えてもらった結果が16件です。14時の枠がそのまま使えるなら、条件付きの2件が落ちて14件。種類ごとの内訳は、開いて調べるが7件、人に聞くが3件、自分で決めるが2件、返信を書くが2件、ものを用意するが2件でした。
減ったのは「自分で決める」だけです。4件から2件になりました。あとの4種類は全部増えています。開いて調べるが5件から7件、人に聞くが2件から3件、ものを用意するが1件から2件、返信を書くが1件から2件。
増えた原因は、書き足された数字のほうにあった
新しく立った作業を見ると、理由がすぐ分かります。
・作業:150個にした場合の360,000円(税別)が予算に収まるか、予算枠と税込金額を確認する ・種類:開いて調べる
・作業:数量を変える(総額が265,000円から360,000円に上がる)ことに上長や購買の承認が要るか確認し、必要なら取る ・種類:人に聞く
・作業:送り直された14時の招待を、カレンダー側で承認する(メールの返信とは別の操作) ・種類:ものを用意する
元の文には金額が書いてありませんでした。だから相手は「金額が出てくるのを待つ」だけで済んでいた。具体的な合計額が入った瞬間に、予算に収まるかを見る作業と、決裁が要るかを確認する作業が立ち上がります。カレンダーの招待も同じで、こちらが先に送っておくと、相手には承認という操作が1つ増えます。親切のつもりで足したものが、そのまま相手の手数になっていました。
そして、ここが引っかかったところです。書き足された数量150個も、単価2,400円も、合計360,000円も、見積番号も、代替候補の3つも、元の連絡文には一つも書かれていません。書き直したClaudeも、そのことを自分から断っていました。
注意:元の文には、数量・単価・金額・見積番号・打ち合わせの日時と形式が一切書かれていません。書き直すにはそれらが必要なので、仮の値を入れてあります(数量100個→150個、単価2,400円、9月25日、9月30日10:00→14:00、Teams など)。ここは実際の値に差し替えてください。仮の値の部分は、僕が勝手に決めたものです。
つまり、返ってきたのは「そのまま送れる文」ではなく「埋めるべき穴の場所が示された文」です。送る前に、書き手が実際の値を全部入れ直さないといけません。そこを見落としてコピーすると、架空の金額を取引先に送ることになります。
落ちた情報のほうは、思ったより無事でした。用件として完全に落ちたものは0件。落ちたのは言い回しが7件で、「社内で確認したところ」「こちらの都合で恐縮ですが」といったところです。冷たくなった、と感じるならそこは人が戻す部分で、用件は削られていません。
そのまま使えるプロンプト
渡したのはこれ1本です。連絡文を最後に貼るだけで使えます。
下は、僕がこれから送る連絡文です。まだ送っていません。
添削も改善案も書かないでください。かわりに、次の1〜3を順にお願いします。
まず1だけ答えて、そこで止まってください。僕が「次へ」と書いたら2と3に進んでください。
1. この文を受け取った人が、返信を送り終わるまでにする作業を、順番に全部書き出す。
1件ごとに、次の3つを書く。
・作業(ひとことで)
・種類(開いて調べる/人に聞く/自分で決める/返信の文を書く/ものを用意する のどれか)
・その作業のもとになった一行を、下の連絡文からそのまま引く
「開く」「読む」「理解する」「送信する」は、どの連絡文でも同じように起きるので数えない。
2. 1で挙がった作業がいちばん少なくなるように、連絡文を書き直す。長さは長くなってもかまわない。
3. 書き直した文に入らなかった情報を全部挙げる。1件ごとに、元の一行をそのまま引いて、
「用件(相手が知らないと困ること)」か「言い回し(挨拶や気遣い)」かを付ける。
--- ここから連絡文 ---
(ここに貼る)
1で本当に止まりました(「ここで止まります」と書いて返ってきました)。添削や改善案は混ざりませんでした。ただし、この一行を抜いた版は試していないので、止めたのがこの一行のおかげなのかは分かりません。
一番働いたと思うのは「もとになった一行を、そのまま引く」です。これがあるおかげで、13件の一つひとつが自分の書いたどの一行から生まれたのかが見えました。「水曜の午後に変更をお願いできないでしょうか。」の一行から5件も立っている、という見え方は、この指定がないと出てこない形です。「開く・読む・理解する・送信するは数えない」は、前と後ろの数を比べるために入れました。どの文でも同じだけ増える動作が混ざると、13と16を並べる意味がなくなります。「長さは長くなってもかまわない」は、短くする方向に寄らせないため。実際、書き直し文は元の3倍以上の長さになりました。減らす対象は字数ではなく作業の数です。
してほしくないことより、してほしいことを書くほうがよい、というのはAnthropicの公式のプロンプト指針にも書かれています。「添削も改善案も書かないでください」という禁止のすぐ後に「かわりに、次の1〜3を順にお願いします」を置いたのはそのためです。ただしこのページはAPI向けなので、チャット画面でも同じ効き方をするとまでは書かれていません。
書き直したClaudeに、数えさせない
書き直したClaude自身は、聞かれてもいないのに3件だと申告してきました。新しい会話に貼って数えさせると16件です。同じ文で、5倍以上ずれました。
読者がやる手順はこうなります。
書き直し文が返ってきたら、その会話は閉じます。新しい会話を開いて、書き直された連絡文の本文だけを貼る。上のプロンプトから「1.」の部分だけを抜き出して一緒に渡します(2と3は要りません)。このとき、元の文がどうだったかも、それが書き直しであることも、書かないでください。自分が書いた文を初めて受け取った人として数えてもらう状態を作ります。
これをやらないと、「作業が減ったかどうか」を、減らしたClaude自身の自己申告で判定することになります。3件という数字だけ見せられたら、僕はそのまま信じていました。
まとめ
送る前の連絡文を見直すとき、普通は「長い」「分かりにくい」を直そうとします。今回見えたのは、そこではないところでした。相手の手数を増やしていたのは、書いてあったことではなく、書いていなかったことです。「明後日」「水曜の午後」「別の日程を調整いたします」——短く書けているところほど、相手が調べたり決めたりする量が多い。
そして、その穴を数字で埋めれば手間が減るかというと、減りませんでした。値が入れば入るほど、相手の側には確かめることと承認を取ることが生まれます。親切な文と、相手の作業が少ない文は、別ものでした。
書き直しが良くなったかどうかは、書き直させたAIには聞かない。それだけは今日から変えられます。